驚異の11,000m防水を実現したロレックス、超深海にも耐える時計はこうして生み出された

スイス高級腕時計メーカーのロレックスは、2022年に発売した「オイスター パーペチュアル ディープシー チャレンジ」について、「限界に逆らう時計」と表現している。要するに、深海の水圧や気圧と同時に、技術的な限界にも逆らっているということなのだ。

このディープシー チャレンジは、水深11,000mでも機能するように設計されている。だが、こうした深さは理論上の意味しかもたないと言っても許されるだろう。

ロレックスには、すでに水深3,900mの防水性能をもつ腕時計がある(08年に初代が発売されたディープシー)。こうした深さは、人間が生存可能な深さをはるかに超えているのだ(なお、耐圧性金属でつくられた生命維持コックピットを使わない飽和潜水士による最深の潜水記録は、1988年の534mとなる)。

それでは、「理論上でしか体験できない深さ」のほぼ3倍という性能をもつ腕時計をつくる合理的な理由はあるのだろうか? そのせいで腕時計が巨大化し、装着性という別の限界にも逆らわざるを得ないというのにである。

ロレックス スーパーコピーが合理的に答えるとすれば、その答えはこうなるだろう。「ロレックスにはそれができるから」

しかし、答えはそれだけではない。「ロレックスはそうしなければならない」のだ。ディープシー チャレンジは1960年に誕生して以来、綿々と続く同社の深海遠征用モデルの頂点に位置している。

マリアナ海溝の最深部へと向かった時計たち
ロレックスは1960年、北太平洋に位置する地球最深部のマリアナ海溝に潜水したバチスカーフと呼ばれる深海探査艇(トリエステ号)の外壁に、「ディープシー・スペシャル」と名づけた試作モデルを取り付けた。エポックメーキングと言われるこの潜水で、トリエステ号が到達した深さは10,911mである(ディープシー・スペシャルはダイアルを覆う丸いドーム状の大きなクリスタルが特徴的な時計で、潜水中も問題なく機能した)。

2012年には映画監督ジェームズ・キャメロンが潜水艇「ディープシーチャレンジャー」号に乗り、マリアナ海溝の水深10,908mまで単独潜水。そのときには、よりモダンな別のロレックスの試作モデルが潜水艇の外壁に取り付けられていた。

ロレックスはある意味、やり残した仕事をディープシー チャレンジで成し遂げたと考えられるかもしれない。キャメロンとともに海溝に潜った時計をベースに、60年にもわたって純粋な実験だった時計を市販化することに、ようやくこぎつけたのだ。技術力の証しとしては、これに勝るものはない。

とはいえ、それも過去のものであるかのように思える時期がしばらくは続いていた。深海遠征用の時計というコンセプトを生んだのはロレックスだが、人間の理解を超えるような潜水性能をもつ時計を生み出して究極の技術力を誇示していたメーカーは、ほかにもあったからだ。

1,000m以上の防水性能をもつ時計をつくるブランドがひしめくなか、真の戦いが始まったのは19年のことだった。スイスの高級腕時計メーカーであるオメガが、冒険家ヴィクター・ヴェスコヴォが乗る潜水艇の外部に、ダイバーズウォッチ「シーマスター」の試作モデルを取り付けて、マリアナ海溝の最深部に送り込んだのだ。
これによってオメガは、自社のダイバーズウォッチで世界最深記録(キャメロンの記録を8m上回る10,916m)を樹立して勝利を手にしたばかりか、市販モデルの開発にも成功したのである。
その市販モデル「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」は22年3月に発売された。とはいえ、その防水性能は6,000m。対するロレックスは、いまやディープシー チャレンジで約2倍の防水性能を達成している。

過酷な試験を課したロレックスの挑戦

オメガとロレックスは技術力のアピール合戦で、自社の時計こそが世界最高だと競い合っている。ロレックスは世界最深記録を失ったとしても、市販されている時計のなかで世界最高の防水性能を誇りたいというわけだ。こうした競争は必然的にイノベーションを生み出し、生産技術の進歩へとつながっていく。

それを証明するかのように、すでにロレックスは想像を絶するほど過酷な試験をダイバーズウォッチに課している。フランスの潜水技術専門企業で、かねて提携しているCOMEXと共同で、超高圧タンクを新たに開発したのである。ディープシー チャレンジの防水性能を検査するためのものだ。

ロレックスによると、一つひとつのウォッチは25%の「安全マージン」をもたされて検査されている。要するに、水深11,000mの防水性能を保証するために、水深13,750mに相当する圧力に耐えられるか検査しているということだ。

実際にディープシー チャレンジの直径は50mmと、必然的に巨大になっている。ジェームズ・キャメロンのマリアナ海溝潜水に同行した試作モデルはステンレススチールが重すぎて、日常的な装着はできない。これに対してディープシー チャレンジの最新の市販モデルは、航空工学で用いられるものと同じグレード5のチタン合金製だ。

このチタン合金は超軽量でスチールと同等の強度をもつうえに、腐食に強く温度耐性もあるので、時計への採用がますます増えている。ロレックスはこの点に限って後れをとっていた。そしてディープシー チャレンジはロレックス初のフルチタン製で重さは251gと、試作モデルから30%も軽量化されている。

内部に目を向けよう。ディープシー チャレンジは、ロレックスのダイバーズウォッチとして最高傑作と言える。そして、このことを装着者に思い出してもらうべく、文字盤にはいくつかの技術名が記されている。

例えば、ロレックスが開発して特許を取得したリングロック システム。内部が窒素合金スチール製の耐圧リングを使った強化ケース構造になっており、極度の圧力を受けても形状が維持される。

ディープシー チャレンジはまた、ロレックスが開発した技術のなかで最も有名な「ヘリウム排出バルブ」を備えている。初めて採用されたのは1967年で、深海での飽和潜水時にケース内にたまるヘリウムガスを、ミッション終了時に排出するためのバルブだった(排出しなければ、減圧時に時計のクリスタルが吹き飛んでしまう)。

ロレックスの熱狂的ファンだけでなく、おそらくは筋金入りの潜水士たちも、ディープシー チャレンジを究極の潜水用ツールとして絶賛することだろう。ディープシー チャレンジは、何にも増してロレックスが“真の王者”であることを再認識させる時計なのだ。

いまなお現役のオイスターケースを1926年に発明し、防水性というコンセプトを初めて世に送り出したのはロレックスだった。そしていまも、これ以上はありえないところまでたどり着こうとして、同社は挑戦を続けている。

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